【ステートメント】

ランドセルを背負った帰り道、僕は、そこら辺の茂みにモンスターが潜んでいるような気がしていた。そして得体の知れない強⼤な悪にも⽴ち向かっていけるような気さえしていた。そう、この世界の主⼈公は僕なんだと信じて疑っていませんでした。
それでも、経験値を重ねていく中で、ふと⾃分の現在地や存在意義を⾒失ってしまうことがあるからこそ、“⾃分こそが主⼈公”という⻘臭くて屈強な想いを、少年・少⼥の図像に託して表現したいと思うようになったのです

⼥性をモデルに描いたシリーズ作「⼗六恥漢図」（2010−2021）では、⼈物のポーズを仏像や仏教図像から引⽤しています。その経緯から、今回主⼈公という名の下に少年・少⼥を描くにあたっても、ポーズという要素を表現の⾻⼦に据えました。 少年・少⼥のポーズのひとつに挙げられるものといえば、仮⾯ライダーやドラゴンボール、セーラームーンなどの決めポーズたち。

この⽇本のヒーローたちに不可⽋な決めポーズや必殺技ポーズの成り⽴ちには、歌舞伎や中世武⼠の“名乗り”が⼤きく関係しています。さらに歌舞伎の⾒得は不動明王など仏像の形から来ていることを加味すると、僕たちは⾒様⾒真似でヒーローのポーズをとることによって、無自覚にも歌舞伎、そして仏像という東洋の文化を⾻⾝に刻み込んでいたと言えるのかもしれません。そう考えると得も⾔われぬ嬉しさが腹底からせり上がってきて、ますます決めポーズをとる少年・少⼥を描きたくなりました。

これから主⼈公をテーマにした作品を描き続けることで、⾃⾝の中でそれがどういった意味を持つのか、より鮮明に、少しずつ明らかになっていくでしょう。このシリーズの今後の展開を含め、楽しんでいただければ幸いです。
“⾃分こそが主⼈公”だと信じて疑わなかった⻘臭くて屈強なあの時の僕は、今も⼼の奥底で⽣きている。　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田中 武